陽の埋葬/田中宏輔
 
すべての瞬間を語りつづけることができるでしょう。」それまで打ち捨てられていた老作家は、それまで打ち捨てられていた通りに、ただ息をするばかりで、彼の言葉をほとんど理解することもできていないようだった。やがて担架が運び入れられ、その身体が持ち上げられて、担架とともに運び出されるまで、老作家はひとことも口をきくことができなかった。彼は、ホテルの支配人に、老作家の庇護者に早急に連絡をとるように言い、老作家の身のまわりの品物をすべて、あとで日本の領事館に送り届けるように命じた。
 三島由紀夫は、オスカー・ワイルドをのせた担架が飛行船に運び込まれるところを後ろから見ていた。瞬間か。そうだ、瞬間だ。しかし、わ
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