陽の埋葬/田中宏輔
てる。
ホテルの支配人に案内されてから十数分ほどのあいだ、彼の精神状態は張り詰め通しだった。ひとり、老作家のいた部屋の窓から飛行船を眺めやりながら、彼は、瞬間というものに思いをはせていた。テーブルの上には、老作家が若いときに、愛人の若い男性といっしょに撮られた写真が残されていた。老作家とのやりとりもまた歴史に残る一コマであった。彼は、それを十分に意識していた。彼は、老作家のやつれはてた相貌を目にして、そのことで気を落としながらも、そう思っていることを悟られないように気をつけて、微笑みを絶やさず、老作家の瞳を見つめながら話をしていた。軍服を着た役人たちには渡さずにおいたフォトフレームに手を伸
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