十六年ぶりに包丁を買う  冬待ち 二作品/山人
 
ようなのだ。それで随分遠回りもしてきたし、損をしてきた生き下手な人間だったのだと思っている。
 包丁について、私は断固として鋼でなければ包丁ではないという思い込みがあった。鋼は錆びやすいがやわらかいので刃がつけやすく、管理をしっかりしていればずっと使うことが可能であり、それ以外の金属の包丁は良くないものという考えがあった。
 包丁は数本持っているが、菜切り包丁みたいなごく一般的な包丁は錆びず、刃も着けやすくとても気にいっていた。そんな性質の牛刀を手に入れたいと思ったのである。仕事で使うモノを新調するなどということは、今まで無かったのだが、不思議なことである。単純に錆びにくい包丁がいきなり欲しく
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