奏でる/由比良 倖
言う。その楽器は、ピアノよりも縦に長く、形としてはアップライトピアノに似ているけれど、鍵盤が普通とは少し違う(白鍵と黒鍵の並びは、ピアノの鍵盤に準じているけど、赤い鍵の位置や、用途は、何度も変更された)だけでなく、他にもいくつかのノブやレバーやボタン、それから一時は目盛りまで付いていたために、それは、楽器と言うより、まるで、蒸気機関が主流だった頃に、巨大なゼンマイ時計をそのまま転用して作られた、原始的な計算機か何かのようにも見えた。
しかし、気品という点に於いては、胃の痛くなるような機能一辺倒の無骨さなどは微塵もなく、それは最初はバロック調にも見えたけれど、私が楽器の進捗を見に行くたびに、多分あ
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