メシアふたたび。/田中宏輔
。
日本の着物を着て
両方の腕を袖まくりして
その腕を組み
じっと
こちらを見上げていたのです。
その顔には見覚えがありました。
天国の図書館にあった
世界文学全集で見た顔でした。
たしか
アクタガワ・リュウノスケという名前の作家でした。
わたしは、そのとき
彼の『クモノイト』とかという作品を思い出したのです。
そのお話は
イエスさまの政敵
ブッダが地獄にクモノイト印の釣り糸を垂らして
亡者どもを釣り上げてゆくというものでありました。
カンダタとかという亡者が一番にのぼってきたことに
シャカは腹を立て
釣り糸を
プツン
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