黒い光輪。/田中宏輔
すまない。」
ユダは顔を上げてあやまった。
女はユダの頭を胸に抱いて、ささやくような小声できいた。
「金が欲しかったのかい。」
「ちがう。そんなものが欲しかったんじゃない。」
ユダは手をのばして、財布を引き寄せた。
「これは約束どおり、おまえにやろう。」
女の手に財布が渡された。
ユダは女の身体から身をはなした。
「行こうか。夜が明けてしまう。」
「あんたも大事なひとを失くしちまったんだね。」
マリアはまだ信じられなかった。
磔になって処刑された男が三日後によみがえるなんて。
そんな馬鹿な話を確かめるためだけに
銀貨三十枚も出す男がいるなんて。
──師よ。いま、わたし
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