黒い光輪。/田中宏輔
石を手にとって、湖面に投げつけた。
「これで死は立ち去った。私についてきなさい。」
ユダの足は、男の歩みに固く従った。
II・III ヴィア・ドロローサ III
「……、そのとき、わたしは死のうと思っていたのだ。」
薄暗闇のなかで、マリアはユダの目を見つめた。
「じゃあ、そのひとは、あんたの命の恩人じゃないか。」
ユダは、女の豊満な胸のあいだに顔を埋めた。
女の目は、ユダの背後にある星々のきらめきを見つめていた。
「どうして、そのひとを売っちまったんだい。」
無意識のうちに、女の乳房を掴んでいたユダの手に力が入った。
「痛いじゃないか。」
「すま
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