黒い光輪。/田中宏輔
──これが、あのひとの命だったのか。
──これが、わたしの求めたものだったのか。
ユダは砂粒混じりの塩の塊を手にとって
彼自身の水影めがけて投げつけた。
水面から彼の姿が消えた。
「友よ。」
「えっ。」
ユダの目が振り返った。
イエスが、生前の姿のまま立っていた。
ユダはおずおずと手をさしのべた。
(ひと瞬き)
イエスの姿はなかった。
──幻だったのか……
──そういえば、はじめて師に出会ったのも、ここだった。
ユダの歪んだ影像(かげ)が水面で揺らめいていた。
II・II 死海にて II
ユダは湖面に映った自身の影を見つめていた。
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