黒い光輪。/田中宏輔
 
過する。」。





I・III ヴィア・ドロローサ II


上がる道も下る道も、同じひとつの道だ。
        (ヘラクレイトス『断片』島津 智訳)


「あんた、さっきから、なに考えてんのさ。」
「いや、なにも、べつに、なにも考えちゃいない。」
「ははん、こっちに来て、あたいと飲まないかい。」
赤毛の男は席を立って、女のそばに腰かけた。
──わたしの顔を知る者はいない。
「ここの酒は、エルサレムいちにうまいよ。」
「ほんとかね。」
男は、中身に目を落として、口をつけてみた。
「よく濾してある。香りづけも上等だ。」
男は一気に呑み干した。

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