『斎藤茂吉=蠅の王(ベルゼバブ)論』。/田中宏輔
 
るかも(『赤光』)

留守をもるわれの机にえ少女(をとめ)のえ少男(をとこ)の蠅がゑらぎ舞ふかも(『赤光』)

冬の山に近づく午後の日のひかり干栗(ほしぐり)の上に蠅(はへ)ならびけり(『あらたま』)

うすぐらきドオムの中に静まれる旅人われに附きし蠅ひとつ(『遠遊』)

蠅(はへ)多き食店にゐてどろどろに煮込みし野菜くへばうましも(『遠遊』)


「蠅」が茂吉の使い魔であることは、一目瞭然である。「蠅の王」(ベルゼブル、ベルゼブブ、あるいは、ベルゼバブ)は、蠅を意のままに呼び寄せたり、追い払うことができるのである(ユリイカ1989年3月号収載の
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