『斎藤茂吉=蠅の王(ベルゼバブ)論』。/田中宏輔
 
ビ己=おの}が身すらを愛(は)しとなげけり     (『赤光』)

うつせみのいのちを愛(を)しみ世に生くと狂人(きやうじん)守(も)りとなりてゆくかも(『この日ごろ』)


 精神科医であった茂吉の、気狂いに対する ambivalent で fanatic な思いは、どこかしら、彼の昆虫に対する思いに通じるところがある。ボードレールもまた、つねに ambivalent で fanatic な思いをもって対象に迫り、それを作品のなかに書き込んでいくタイプの詩人であった。


まもりゐる縁の入日(いりび)に飛びきたり蠅(はへ)が手を揉むに笑ひけるか
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