パパ、パパ、パパ、/ゼッケン
 
た記憶がないことをおれは否定できなくなった
寝袋の中に入っているのはもしかしたら別人かもしれない

シャベルの動きが止まる
土に半ば埋もれた寝袋を穴の縁から見下ろす
鼻の下に溜まった汗を舌先で舐める
寝袋の中の呼吸音に耳を澄ます
一戸建ての庭から月が見えた
あの部屋の窓には朝が来ても開かれないカーテンが下りている
おれはふたたび視線を下ろして穴の底を見つめる

おれは寝袋のジッパーを開き、顔を見て、人違いでした、
おれはばつが悪そうにはにかみ、相手は安堵の吐息をつく
それではもう、お引き取り頂いて結構です、とでも言うの?

背中をバットでフルスイングで叩いた
さらっ
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