年代記/本田憲嵩
透明に澄みきった大きな瞳をくりっとさせながら、懐かしそうにこちらを見つめている、その瞳はどこか陽炎のように揺らめいてもはやその周囲には皺もなければ染みもない。やがて彼女はななめうえ上空を見つめはじめた。いまだ繰りかえし折りかえしている書物から花びらのつむじ風をより確実に転送させるために。なぜなら花びらの舞数とそのいきおいはますます春の青空へと増してゆくばかり。そんなかのじょはまるでひとつの、きわめて服飾的な地球のデバイスのようだ。腰まであるロングの黒髪とベージュのスカートの裾は後方へとおだやかに接続されてゆく可視できる二色の流線のケーブルのようだ。
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ぼくらの周囲にからみつく
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