年代記/本田憲嵩
とび跳ねるかのような勢いで急に立ちあがったかと思うと、なんとこちらへと近づいてくるではないか。その樹木のように皺のおおい貴婦人の顔はどろどろと粘土のように溶けはじめてきて、ねじれたパン生地のようなしろいのっぺらぼうとなり、そのねじれが一瞬でゴムのように元どおりになるやいなや、じつに透明感のある少女の顔だちをかたちづくったのだった。
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どうやらそれはつぎつぎにみずから捲れてはまた折りかえすことを素早く繰りかえしている、ページとページのまばたきから産まれ出ているようであった。虹いろの花びらがきわめてゆるやかな気流にのってつぎつぎと空へと舞い上がってゆく、本を両手に開いたまま半透明
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