年代記/本田憲嵩
ば、ときおりとても強い意志によってまるで茶水晶かなにかのようにくっきりと澄んでいるようにも見える、そしてときおりどこか悲しそうにも。散歩がてらに公園へとおとずれていたぼくはちょっとした好奇心に駆られて、かのじょとその書物の前をちょっと離れたところから幾度かなにくわぬ顔で通りすぎてみた。そうして少しずつ近づきながらちらりと盗っ人の横目でその書物を読んでいる彼女を見やってみる。すると彼女もぼくに気づいたらしくその茶色い年老いた瞳とぼくの若い目とがついにピタリと一致してしまったのだ。すると彼女はその書物を両の手に開いたままはっと驚いた様子で、まるで機械のように硬いまばたきを何度かして、まるでウサギがとび
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