詩のこと、言葉のこと/由比良 倖
 
に戻るのだけど、僕は中也を生きている人みたいに思っていて、彼を友人みたいに思う。だから中也詩集はバイブルではなくて、生きている友達そのものだ。遠い誰かに語りかけるように中也の詩に接するときもあるけれど、基本的には僕は会話の途中で「中也はね」と身近な友人みたいに話してしまう。そういうところから僕は言葉を信じているし、詩を信じている。
 中也は詩の中にいると思うので、一応中也についての伝記や改題みたいなのも読み込んだし、彼の批評も日記も読んだけれど、あまり面白いとは思わなくて、詩だけを読んでいる。書簡集や小説や、あとは中也のお母さんの回想や、友人たちの書いた彼の思い出、中也の恋人だった泰子のエッセイ
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