詩のこと、言葉のこと/由比良 倖
 
ず素通りしてしまう。
 小説では、日常では全く使わないような、曖昧な心情や情景を、とても的確に表現する言葉によく出会う。それを読むたびに僕は、とてもふわっとしたような、でもそういう気持ちって自分にもあるという、懐かしさや安らぎを感じる。あまり思い浮かばないので、さっき書いた「幽玄」を使い回すけれど、「その家の戸を開いた瞬間、一瞬にして時代をいくつか遡ってしまったような感覚に捕らわれた。ただ古いというだけでなく、幽玄とさえ言えるような空気がそこには漂っていた」という表現があるとして……ちょっと下手な描写かもしれないんだけど……、多分、甥にしても、この表現をあと十年くらいすれば、過不足無く読めて、何
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