白椿/リリー
 

 庭石が敷かれる土に植った椿の木。
 どれだけかの時間、ぼくの心には構想が
 大岩に当たって砕け散る波飛沫となって。
 脳裏に、小野小町九相図が浮かんできた。
 絶世の美女との逸話が残る女の死体が野辺に
 打ち捨てられたまま腐乱し骨になる。
 その有り様が九段階に分けて描かれる仏教絵画。

 椿の枝は葉っぱの深緑で覆われて
 そこからカップ状したままの花が落ちた時。
 それはきっと、まるで
 若い女の頬つたう涙のまるい一雫にも似ていたのではないか。
 庭砂利に落ちた花は、夕風の溜め息や
 朝の日差しの私語のようなお喋りにも耳傾けて
 そこに咲いていただろう。
 何が
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