旅するエコー/ただのみきや
 
無花果の静けさに
わたしはからだのない楽器 
旅するエコー
隠匿されたものを熟させ
自己を腹ませるもの


悲劇と神話を入れ墨した男 だがその影は厚みを増すばかり
おまえの捨てた土の母がお前の建てた肉体の終の棲家となる


なよやかな若芽となり震えながら欹てよ
閉ざされた白い布の向こう
風と光の戯れに想い忍ばせて


太陽の一滴の涙で煮えたぎり蒸発する
空も海も蟻で満ち
干上がった血の河は見えざる虚空と睨みあう
ひとつの巨大な煙突だけが所有物
無限に夢を焼べつづけ絶望の噴煙は己を包む


一羽の鳥が落ちる悔恨の便りのように
ただ乾いた記憶の奥底

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