深海で暮らす/ちぇりこ。
真上の部屋に住んでいるという
このアパートの、存在しない三階の部屋に
軽く会釈をしながら
さざ波を立てて、漂っている
ご挨拶が遅れてしまって申し訳ありません
わざわざお越し頂いて
ぼくは間の抜けた言葉を発し
キッチンでふやけたように横たわる
粗品のラップを一つ、その人に手渡した
六月は、うつくしい水の
澄んだ音色を奏でる季節
雨の降る日には決まって、その人は
ぼくの部屋を訪れるようになった
最期の紫陽花が、彩を失ってゆくように
会話を重ねるぼくたちの足下には
原初の海が、明けきれない空を写し取る
ある時ぼくは、その人に
名前を訊ねてみたんだけれど
陸で暮ら
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