冬の禁断症状/ただのみきや
 
時間とは無関係で
だれからも読まれずに忘れられた時
ことばは白紙深く沈んでしまう
歴史上すべてのことばが沈んでも
白紙は白紙のまま少しも濁らない
ことばもまた非在として在り続け
時おり白い鏡のむこうから声もなく
海に沈んだ船乗りが仲間を誘うよう
白紙はことばに勝る
沈黙が発言を包み込んで窒息させるように
鳥の血の叫びを空が吸いとるように
だが白紙は誘う
白紙以外に人が己を真に吐露する場所はない
他人のこころは白紙ではなく
だれの頭も小賢い殴り書きでいっぱいだ
白紙だけが吸い取ってくれる
全身全霊の身投げも水音すら上げずに
裳裾も乱さずオフィーリアよ
忘却の果てへ
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