小詩集・波/岡部淳太郎
 
うと
あの丘のうえに立つ一本の木の
根元にまで届きたいという一心で
波はその指先を延ばす

だが 届かない
海の一部である波は
あんな高い地の奥深くまで
届くはずもない

そして波は知っているのだ
自らの指先があの木まで届くのは
それは大きな天変地異の時
人々がそれによって
悲しんでしまう時だということを

だから波は
届きたいと願いながらも
その思いを海の底に封じて
いつも通りの
穏やかな波のふりをするのだ}


波 4

{引用=いったいこれまでにどれだけの量のおまえたちを
さらっていったのか
砂よ
この地にありながら
さらさらと

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