詩の日めくり 二〇二二年七月一日─三十一日/田中宏輔
 
ほど知りつくしたものもおりません。」などと言う。ネヴィル夫人は、約束し、死神の頬に口づけをする。正確に引用するならば、「「約束します」夫人はそういうと、若き死の女神のやわらかな、甘いかおりのする頬に口づけするため、ひからびた唇をすぼめた。」(ピーター・S・ビーグル『死神よ来たれ』伊藤典夫訳、33ページ・12、13行目)

 よくできた寓話だと思う。死神が若い美人であることなど予想もしていなかったし、さいごに伯爵夫人と役柄を入れ替わるというのも意想外で、おもしろかった。さいごに、美しい若い娘姿の死神と、老婆である伯爵夫人が接吻を交わしたのも、それが死神になる決まりで、美しい若い娘姿の死神も以前に
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