羽化することのない痛み/由比良 倖
僕の過去は霞んでいる。ふやけた本みたいに。ある一日は隣の一日とくっつき、ずでんと湿った重苦しい塊となり、僕の脳内の過去の領域に鎮座している。僕はそれを開くことが出来ない。何にも分からない。毎日日記は書いてきたけれど、どの一日の記述を読んでも、それはここ数年の澱んだ、任意の一日という以外、僕に何の感興も、懐かしさも、何にも引き起こさない。
暗い暗い、腐った殻からいつまでも出られないサナギのような生活。今になっては蝶にもなれない。
白いスピーカーからシビル・ベイヤーの、憂鬱な空の下でぽつりぽつりと呟くような歌声と、遠い思い出を愛でるような、とても控えめなギターが流れている。最近、彼女の『C
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