羽化することのない痛み/由比良 倖
この赤は何だ、と思う。対象の表面が跳ね返す光の周波数、それがゆるやかだと、それは赤に見える。
言葉の世界に逃げたいとよく思う。赤が周波数だとか、空の青は、大気の屈折率がどうの、なんて考えたくない。僕の言葉は今、干涸らびている。頭の中に苔が生えていて、その苔の下をちょろちょろと流れる水を、やっと指先で掬い出すようにして、言葉を書いている。
言葉でしか表せないことがある。良し悪しは置いておいて、僕にしか書けない言葉があるはず。
放課後の理科室みたいな、清潔な部屋が欲しい。白っぽくなったビーカーやシャーレが息をひそめているけれど、それは僕を脅かさないし、僕もそれを捨てようとしない。
僕の
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