羽化することのない痛み/由比良 倖
 
人には、「本が好きなんだ」と言い始める。
 今も別に僕は自然には興味が無い、と自分では思い続けているけど、「自然が好き」と友人に認識されている自分については嬉しい。少し屈折しているかもしれない。仮に「君は自然が嫌いなんだな」と返ってきてたら、その通りかもしれないけど、反発したと思う。

 雨の匂いがする。本当はアスファルトが濡れた匂いらしいけど、やっぱり雨らしい匂いだ。ゆっくりと夜の底に沈んでいきたい。明るすぎると、僕は急速に浮かび上がってしまうので、電灯の光は極力落としてある。
 この部屋の中に、僕の宝物だけがあればいいとよく思う。本当は全て無色なのだ、と科学者や哲学者は言う。じゃあこの
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