羽化することのない痛み/由比良 倖
ぐなのかも覚えていない。覚えているのは、抽象的で、あいまいで、けれどはっきりした夜の感覚だけだ
僕が、授業が嫌いでもう嫌になったと、地元の友人にメールで書いたら、「君は自然が好きなんだろうと思う」と返ってきて、何故か、ああそうか、とすとんとした気持ちになった。地元の山や海が急に思い出された。僕の性格というのは、僕が決めるんじゃなくて、誰かからの嬉しいひと言を覚えていたり、はっとさせられたことに起因しているんじゃないだろうか、と思った。
僕の性格は産まれ付きではなく、人に言われた嬉しい言葉の集積。例えば子供の頃「お前は本が好きだなあ」と言われて初めて、自分を本好きなのだと認識したり。僕も人に
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