羽化することのない痛み/由比良 倖
果物、何かの果物の皮を剥いて、丁寧に切って、静かに食べたり、食べなかったりしたいなと思う。多分、寂しくなってて、僕には僕自身が、その寂しさに値しないように思えて、汚れた心と自分の言葉をグロテスクに眺めている。急に生活感が戻ってきて、ぽつんとした気分で、早足で僕は僕の世界へ、僕の部屋へ戻る。
友人たちに会いたいとひどく思う。それから今までに会った全ての人たちと楽しい話がしたい。今、一番身近な友だちは本だ。沢山の本たち。窓を開けると、色の無い風景。固体でも液体でも、気体でもない、砂のような光が舞い降りてくる世界。中原中也の書いた『一つのメルヘン』では、透明な世界は美しいけれど、僕に見える風景は
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