詩の日めくり 二〇二一年十三月一日─三十一日/田中宏輔
 
きものがあった。そういう通常の事柄においては、数学がきわめてエレガントに見える、と彼は思った。どうやって自然は、引っ張る流れに対する魚の距離を指定し、どういう尺度で彼が近づきすぎたことを肴に教えるのか? それが、彼を数学に引きつけたものだった。それが深淵だからではなくて、目に見えない現実に探りを入れるからだった。人々は数学が世間離れしていると言い、アインシュタインが正しい銭勘定もできないと騒ぎたてる。とんでもないことだ。」アインシュタインは、関心がなかっただけのことだ。アインシュタインに興味があったのは、深遠で美しいものだったのだ。
(グレゴリイ・ベンフォード『時の迷宮』上巻・第二部・6、山高
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