詩の日めくり 二〇二一年十三月一日─三十一日/田中宏輔
「断章」
私は私自身を集めねばならんのだ
(フィリップ・k・ディック『シミュラクラ』14、汀 一弘訳)
二〇二一年十三月二十八日 「断章」
ジョンは引き返した。通路の中央を埋める岩は、かなり大きいが、経験のない彼の目には、異常なものとは見えなかった。彼は、その一つを取って、黄麻布の携帯嚢に入れた。灰色な斑点の群れが銀色に閃いたと思うと、また灰色に戻って、安全な距離をとりながら整然とした列を組んで浮かび、彼を慎重に観察した。たがいに正確な感覚を保っていて、またもや彼が近づくと即座に散って、彼の視野の外れでふたたび隊列を組み直した。彼らの泳ぎの正確さには、驚嘆すべきも
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