詩の日めくり 二〇二一年十三月一日─三十一日/田中宏輔
 
の味』第三部・4、青木久恵訳)


二〇二一年十三月二十四日 「断章」


「いや、シェイクスピアの再来かもしれない人間は、この劇団にはひとりしかいない。それはビリー・シンプスンだ。そう、小道具のことだよ。彼は聞き上手だし、どんな人間ともつきあう方法を心得てるし、さらにいえば心の内側にせよ外側にせよ、人生のあらゆる色と匂いと音をネズミとりのようにとらえる心をそなえている。それに非常に分析的だ。ああ、彼に詩の才能がないことは知っているよ。でも、シェイクスピアが生まれ変わるたびに詩の才能をそなえているとはかぎらない。彼は十以上の人生をかけて、劇的な形をあたえた素材のひとつひとつを集めたので
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