「夏の思い出」の詩人、江間章子/藤原 実
 
いているのだと思う。
泣くかわりに、泣くにひとしい非合理的主張をしている。感覚的表層のうえに、彼女らの
抑圧されたものの中身を表現している
      (多田道太郎『風俗学』ちくま文庫)

左川ちかは激しく泣いていたのかもしれません。

そう思って彼女の詩人としてのデビュー作とも言える『昆虫』という詩を読むと、
{引用=
  「昆虫」左川ちか

昆虫が電流のやうな速度で繁殖した。
地殻の腫物をなめつくした。

美麗な衣裳を裏返して、都會の夜は女のやうに眠つた。

私はいま殻を乾す。
鱗のやうな皮膚は金屬のやうに冷たいのである。

顔半面を塗りつぶしたこの秘密
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