スズメバチ(SS私小説)/山人
 
だが、まったく気づかなかった。頭上であるから、ハチも警戒心がなく、川村自身も全く分からなかったのであろう。
 川村の住む地区には守門岳と浅草岳という二つの中規模の山岳があり、登山道は長短含めると六コ−スあった。そこを三名でそれぞれ担当区域を分け、単独で行うのである。川村は以前は一コースのみ依頼され行なっていたが、徐々に担当者がリタイヤし、四コースまで増えてしまっていた。きついが実入りが多く、この時期が一年で最大の難関期でもあった。さらに今年は、九月の連休に、ある程度の家業が見込まれ、その前に登山道作業を終わらせる必要があった。つまり、今年の登山道整備はハードだった。いつもなら九月いっぱい適当に日
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