魔鏡の焦点/ただのみきや
 
砕けた光 秋の匂い
五感は透けて
感傷の古池に浮かんでいた


黒光りする虫をつかまえて
ピンで留めてみる
不器用にもがいていた
鋭い大顎も暗器のような爪も
ただの装飾へと変わってゆく
その隣にはアーモンドチョコ
ひとかけらの甘味も留めて


ババロアのふるえる声
――死者のわらび餅には気を付けろ


この花の蜜をよく吸ったものだ


今朝玄関の前に翅を開いたまま
一匹の火取蛾が落ちていた
花のように美しい真っ赤な頭


昨夜の雨と風はもうどこにもない


ことばを話せたらと思っていたが
やりとりされるのは跡形と捏造だけ


空ろな
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