解くことを諦めた知恵の輪が唯一の遺品だった/ただのみきや
な労働者たちの通いどころとなる
ちいさな蝶の翅を片方つまんだ
くちびるほどのやさしさで
残された羽ばたきのやわらかな激しさは
力が尽きるまで繰り返された
捉えようのないものを捉えて
梯子もないのに昇り降りする
五線の檻から逃げ出して
音符は初めて歌になった
そのからだは流動する
静止すれば消えて動き出せば現れる
身をまかすことはできても
つかまえることはできない
寝そべって舟になる
歌声にながされて
月のようになめらかに
沈む場所を訪ねながら
彼女はそよ風に誘われたひとすじの煙のよう
舞台に歩み出す 全身を盲目の指先にして
動作
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