詩の日めくり 二〇二〇年十三月一日─三十一日/田中宏輔
いうのばかり憶えているんじゃないよ。主人のいないときに間男を自宅に引き入れていた夫人が、その間男に言うセリフが泣かせるものだったのだった。いま、そのセリフを引用しようと思ったら、思い出せなくなっている。そのセリフが交わされた場面の記憶だけが残っている。なんという忘却力。でも、そんなふうに、ポルノ映画から得たものも、感覚的に、ぼくの詩に影響していると思う。良質の哀愁があるポルノ映画も少なくないんだよ。あ、間男に夫人が言ったセリフを思い出した。「わたし、忘れないからね。ぜったい忘れないからね。」だった。
二〇二〇年十三月十四日 「腋臭」
日知庵に客として行ったときのこと。いつも二
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