詩の日めくり 二〇二〇年十三月一日─三十一日/田中宏輔
 
つれはて かたくなになっているからだ

俺は床屋の臭いに大声をあげて泣く
俺が望むのはただ 石か羊毛のやすらぎ
俺が望むのはただ 建物も 庭も 商品も
眼鏡も エレベーターも 見ないこと

俺は自分の足や爪にも
髪や影にもうんざりしている
俺は人間であることにうんざりしている

(冒頭から3連を引用した。全部で10連ある。桑名一博訳)

でもって、『イル・ポスティーノ』では、忘れられないやりとりがあった。詩人と親しくなった郵便局員に、詩人が、漁船で作業している漁師を見て、どう思うかねと尋ねたら、「きょうも悲しい網を投げかけている。」と郵便局員役の役者が返事するのだが、そこ
[次のページ]
戻る   Point(15)