正風亭(推敲後)/武下愛
 
ょうかね。今日はお塩にしましょう。桜色の梅塩、白いお塩、黒っぽい藻塩を、三種盛れる区分けされた碧色の柄のない皿にしましょう。あら。真っ黒だった炭が段々赤くなってぱちぱちないていらっしゃいます。近くに居るだけで汗が出て、夏の様です。所々灰に成るのは、まだまだ先ですね。これから始まる時間を想像させて戴けます。今日もあの御方達はいらっしゃるかしら?

十数年の歳月を経ても紺色の生地に白く正風とくずれて書かれた暖簾は変わりません。店先の入口上に掛けます。その時は、御客様をしっかりとおもてなしさせて戴ける様に、おまじないをします。黒い草覆、鼻緒は紅。片方の爪先を地面にかつかつとぶつけます。振り向かなくて
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