文化会館の用具箱の隅に残されていたいくつかの書き置き/ホロウ・シカエルボク
 
れど
爪についた傷のようなものにしかならなかった
蝸牛がまるで覗き部屋の客のように窓に群がって
子供のころに見た夢を思い出す
たくさんたくさん、窓辺で虫が死に絶える夢
いつかの元旦の夢だったような気がする

骸を着ているのだ、本当は誰だって
ままならぬことばかりだと憤るために
ポケットの小銭で手に入れた飲料水は
明日の命になることすら出来はしない
風のなかに遺書をしたためよう、いつかはきっと必要になるものだから
気まぐれに意中の誰かに
届くことだってあると聞いたよ

草を探した飛蝗は彷徨いの果てに
軽トラックのタイヤの藻屑と消えました
わずかな虫が取り囲んでいたの
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