彷徨いの中にしか人生はないのだと思うことがある。/ホロウ・シカエルボク
 
ぶん昔に潰れたクリニックの二階の窓から誰かがこちらを眺めている、はっきりとは見えないが若い女のようだ、生きているのか死んでいるのかわからない、でもそれは廃墟の二階の窓に居る、ライラックの無邪気な香り、横たわる撥ねられた猫、自動販売機の並ぶ一角で小銭を探している薄汚れた男、神様とはもしかしたら古代に落ちた原子爆弾なのかもしれない、青信号で歩き始めた瞬間、片手でスマホを操る自転車乗りが脇をかすめて行く、太陽はようやく今日の方針を纏めたようで、次第に温度を上げ続けている、海に出ると世界は程よい沈黙の中だった、砂浜に沈みながら昨夜見るはずだった夢を少しの間見ていた、カウント・ベイシーの運指の幻視、堤防で跳
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