詩の日めくり 二〇二〇年四月一日─三十一日/田中宏輔
 
それ一回だけだったけれど、かかったってわかったときは、とても怖かったし、なによりわずらわしかった。スミスリンって名前だったかな。粉クスリをかけて、陰毛をぜんぶそり落として対処したことを覚えているけれど、毛じらみを目で見たときは、ほんとうに怖くて、気持ち悪かった。でも、フトシくんのことは、あまり悪く思っていなくって、きっと遊んでたんだろうな、若くて、カッコよかったから、とか思ってた。毛じらみにかかったことがわかってからは、直接会ったのは、夜、京都の発展場だった葵橋のベンチに坐っていたときに、フトシくんがベンチのそばに来たときくらいかな。すこし話をして別れたことを覚えている。詩集を出したときに彼の住ん
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