詩の日めくり 二〇二〇年四月一日─三十一日/田中宏輔
 
花も

マフラーを首巻きといふ祖母の春いかなるやさしき手にてほどかる

手をつなぎわたくしたちは丘にのぼつた、夕焼の木を植ゑて帰つた

少女らの微笑のなかで春は迷子になつてゐる ここからは神の領分

風は風の似姿をつぎつぎに生みランボーの蹠さへももはやわからず

沈黙といふ言の葉をみつけだすまで人類史もうあとすこし

みどりの洪水ここよりはじまる森番の指(および)からまづさみどりに

井戸の底にも青空があり思念への装ひだけはいやにお上手

花も嵐もなんだつて在る この世のことはこの世にまかせよ

六十年後のポケットに大切に仕舞はれてゐるけふのあをぞら

[次のページ]
戻る   Point(16)