詩の日めくり 二〇二〇年四月一日─三十一日/田中宏輔
 


春の雨そのひとしづく わたくしの一生(ひとよ)がたれかの夢でありますやうに

ヒヤシンスてふ名前が好きです花よりも。秋をひんやり折りたたみ

謝肉祭仮面のうへに仮面をかさねあなたはあなたをみうしなふ

さういへば祭りのあとの回廊で瀕死の仮面を拾つたことも

花のやうな宝石と宝石のやうな花 どちらがお好き?シラクーサ

そのつぶらなる秋の瞳がささやいた「だいじなものは枯葉のなかへ」

「掛け算は好きですよ、わけてもゼロは」嵐の夜の客人と話がはづむ

「径のない森を横切る方法は?」忘却と記憶の掛け算を

わたしが円をいくら描いてもつながらない 四月はどんどん
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