詩の日めくり 二〇二〇年四月一日─三十一日/田中宏輔
 
を忘れることも

今生に不平はあらずされど来世きつぱり要らない 明けてぞ今朝は

図書室のア行のすべてを読む決意あへなく笑殺アリストテレス

漠と獏書き違へてもそのままに春の微睡(まどろみ) 世紀は過ぐる

なにもかも浮力のセヰです半島が朝の手指をつぎつぎ放し

奇蹟ならまいにち起きます頂きのちひさき花にしづくする空

旅人よおまへがあらたな謎となれ森の梢でさやぐ箴言

ひとはゆめみる儚ごと もみぢならもみぢのかたちに散るまでを

父の手は汚れてゐるか野に百合を空に小鳥をあたへたまふに

掌(たなそこ)にあるだけの種ぜんぶ撒くきれいな花もみにくき花も
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