詩の日めくり 二〇二〇年四月一日─三十一日/田中宏輔
 
こも遥かなりうすくうすく梨を切る夜

カーテンの波うちきはでこひびとと淵を覗いたまことしやかに

渦巻きて凍る風ありそのせつな又三郎が閉じこめられて

たれひとりゐなくなりたるこの街で晩鐘を撞くその人の名は

大鴉さいごの章を銜え来よ此処は未完のものがたりゆゑ

シーツの白さで目が覚める、窓をあけるとからさわぎ、なんと麗(うらら)な間氷期

口遊む「老水夫行」凪といふこのつかのまの波の休符よ

ちよろづのやすらはぬ夢喰べるてふ獏もおのれの夢にたべられ

「映画ダンス焼夷弾それが青春」母の名は和子、昭和元年生まれ

うすずみが偶・隅・遇とさまよひて筆先つひに
[次のページ]
戻る   Point(16)