詩の日めくり 二〇二〇年三月一日─三十一日/田中宏輔
 
ったみたいで血を出していたけれど反抗しなかった。ぼくはなにもできなかった。このときに、言葉は知らなかったけれど、理不尽というものをはじめて知ったように思う。


二〇二〇年三月十九日 「レイモンド・ラブロック」


 父親は趣味人で、寝室に、1メートル×2メートルくらいの映画のスティール写真をパネルにして飾っていた。たしか、レイモンド・ラブロックとかいう名前の俳優の半裸写真だったと思う。訊くと、フランス映画の「化石の森」とかいう映画の一場面だそうだった。ふたりの青年とひとりの女性の同棲生活を描いたものだったらしい。わざわざ写真館に頼んでつくらせたのだという。そういえば、父親は靴もオーダ
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