この春は地獄からやって来た/ただのみきや
 
が降るだろう
残雪は白昼夢
淫らなしどろもどろが
白樺の天秤を揺らしている

その目が万物を磨き上げたのだ
すべてに映り込んだ己の鏡像を見ろ
静寂はざわめきだ
蚕のように音を食むものたちの

ああ如雨露の中で溺れる蜘蛛
光と影を一つの言葉に綴り合せる
神話のお針子よ
見知らぬ寂しさに水をやり
会話の絶えた日影で腐らせろ
咬み付くことしか知らない盲目の犬の
嗅ぎ分ける子午線にそって
鳥の影を駆け抜けさせろ
想像に過ぎない底なしの厚みから
天井にゆらめく波紋の照り返し

澄んだ油の中へ沈んでゆく黄金の男
顔を一枚はがして髪にハナカマキリを飾った女

掛け
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