蛍/山人
 

誰からともなく表に出ると誰からともなく歌いだす
ほ、ほ、ほたる来い、あっちのみーずは苦いぞ
こっちのみーずは甘いぞ、ほ、ほ、ほたる来い
 夏グミが生る小さな堀のところに良く集っていた蛍
その蛍を手の平を丸くしてふんわりと潰さぬように掴んで
そっとネギの中に入れる
ネギの中の蛍は思いついたようにぽかりぽかりと光を放ち、明かりを灯していた
 未だ夏になりきれない夜、なぜか蛍を求めて表に出ると皆がいた
おなじ開拓村の子供達が、それぞれの家から出てきて、蛍を追った
蛍は追われていたのだろうか、いやそうではないと僕は思った
きっと蛍も、僕たちと一緒に外で乱舞したかったのではなかったんだ
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