蛍/山人
んだろうか
蛍は僕たちから逃げるでもなく、ぽかりぽかりとただ闇夜に浮かんでいたし
僕たちの手の平の中で眠ったように光っていた気がする
束の間の晴れた夜の空間、闇は僕たちをやさしく包んでくれていた
嬌声と笑い声が、冷たい水の通る掘割の隅から
夜露の付いた草花の端っこまで染みわたり
僕たちはよく闇と絡まり、くるくると回っていた
特別それが面白いとか素敵なこととかに思えたわけではなく
僕たちはただ開拓村の縮こまった入れ物から出たかったのかも知れない
闇を自由に操り、飛び回る蛍を見て
僕たちは閉塞された場所からの開放を夢みていたのかもしれない
ある日僕は、ネギの中に入れた蛍を家に持ち帰り
ちゃぶ台の勉強机の教科書を読んでみようと思った
ぼうっ微かに光り、文字は見えないこともない
でも、こんな光じゃ、勉強なんて出来るはずはない
僕にはそんなことは出来ない、そう思った
今年は未だ蛍を見ていない
蛍を見に表に出ることもないのだから
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