昨日、私は山に向かった/山人
れる要素は皆無で、空はグレイに覆われ、さびれた廃ホテルが雪に埋もれているという、鉄のような冷たい現実だけが私を迎えていた。
スキーの裏面に滑り止めのシールを装着し、歩きはじめるわけだが、そのシールとて、すでに老朽化甚だしく、スキー板の滑走面にくっつけるべく粘着力がほぼ無いに等しい状態がここ数年続いていたのである。かろうじてスキー板の後ろ部分に取付金具がついており、それが粘着力をカバーしてくれているに過ぎなかった。
私は歩きだしたが、ここのところ身体は重かったし、出勤しているだけというぐうたら勤務に明け暮れ、菓子などを口に運んでいたツケが、この肥満な腹を作り出してしまったのだ。余分な脂肪もろ
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